alaska


荒川土手サイクリング道は、どこまでも平坦で、しかも見える景色は、のどかな工場街と河川敷の野球少年ばかりだ。山を走るのと違って、あんまり外界に気をとらわれない。というわけで、昨日は、走っている1時間59分(←はっはっはー、自慢気)、意識は自分の内へ向かい、いろいろ考えた。


「いろいろ考えた」なかで、かなり唐突だけど、


望ましきリーダーの姿、ってのがある。

ホント、唐突だけど。


リーダーには、「こっちへ行こう、ついてこい」な背中が必要だ。



で、その根拠は、またNOLSに戻るのだが。


NOLSは、どこにテントを張るべきか、という、O=アウトドア技術も教えてくれるが、同時に、L=リーダーシップを学ぶ学校でもあって、それは、毎日毎日、実践で、リーダー養成塾みたいなことをやらされる。自分のことはさておき、他の生徒に目をやれば、面白い人間観察の機会だった。




コース中の毎日というのは、「次のXポイントまで辿り着く」というのが、その日やるべきの一番大きな・・・、というか、唯一の目標だ。最初はインストラクターが、地図の見方と歩き方を教えてくれながら、先頭きって歩いてくれるのだが、徐々に、生徒に主導権が渡される。


4人1組のグループをつくり、その日のリーダーを決め、リーダーがみんなの意見をまとめつつ、1日の戦略を練って、Xまでの道のりを決めていくのだ。


といっても、Xまでは、何の道があるわけでもなく、写真のように、ただ、山と川と森とツンドラが、茫漠と広がるだけな、トホホな場所。地図とコンパスだけが頼りだ。「遠くに見えるサドル(・・・鞍部?)を超え、4マイル先にある川の合流地点から、東の支流に入り、さらに1マイル上流にいった、少し平らになっていそうな場所」Xへ向け、歩きやすそうな道を決め、辿り着かなくてはいけない。



ある日のリーダーは、普段小学3年生にアウトドアを教えているという、カリフォルニアン・エミリー(20代半ば)で、メンバーには、私が見るに、このワイルドな環境がイッパイイッパイ気味で、ちょっと神経質になっている、東海岸からやってきた、イラナ(20代半ば)がいた。


開放的で陽気な西海岸の私と、まじめで根暗な東海岸の人間だから仕方ないのよねぇ、とは、エミリーの弁だが、この二人の相性は水と油で、笑えるほどに気が合わない。小学生を率いるように、何でもすべてを自分だけで決め、1から100まで口を出すエミリーに、イラナは、イライラしてしまうのだ。


この日は、川沿いをまっすぐ歩く、という、比較的楽な行程だった。


エミリーが最初に決めたのは、いくべき方角を見失わないように、と、本当に、川岸を進むことだった。が、すぐに、全く平らなところがなくなり、気づけば、傾斜50度くらいの崖をトラバース、という、あんまり楽しくない道になっていった。


20mほど、この崖を上がれば、平らな場所にでるが、そこは、鬱蒼とした森とコケが広がっており、その藪漕ぎも、楽しくないことにかけては、崖道とイコール、という状況。


どっちもどっちだよ、という選択肢なのだが、後ろでイラナが「こんな危険な崖を選ぶなんて」とブツブツ文句を言う気配を察し、彼女の気持ちを損ねたくないエミリーは、「じゃあ、上の道を行ってみようか」と、茨の道へ入る。


あの藪こぎをしたことない人に説明するのは難しいのだけれど、右も左も前も、木と枝が立ちふさがってて、さらに、足下は、バランス取りにくい、深くて柔らかい苔林と倒木。全然、前へ進めないほどの、ため息がでる道なのだ。


すると、下の方から、崖道を選んだ他のグループが、私たちを追い越していく。それを見たエミリーは、「やっぱり崖に戻った方が早く進める」と言い出して、また、下へと下りていく。


それを何度か繰り返し、河原と、その上の森とを、ジグザグに進む私たちは、この日の到着は、3グループのなかで、最後尾だった。しかも、リーダーなんて信じられないというイラナの不安感と、それを察して、陽気に空騒ぎするエミリーが作り出す不穏な空気に、他のメンバーはドキドキしながら、互いをなだめながら過ごしたため、妙に疲れた1日だったの。




別の日。


その日のリーダーは、大学1年生、一番の年下で、みんなから「ベイビー」呼ばわりされていた、メヨ。彼は、何においても、積極的に首をつっこむことはなかったが、タフな状況に落ち込むこともなく、常に、イージーゴーイングな姿勢を貫いていた。


この日は、「森の中を東北東に3マイル進むと川にでる」という行程だ。時間的には短いが、歩いている3マイルの間は、森で視界が遮られ、自分がどこにいるのか分からない。私がリーダーなら、かなり不安げに、地図とコンパスと首っ引き、になるような森だった。


が、彼は、「こっちだよ」と、どこからでてくる自信なのかは知らないが、何の迷いもなく、楽しげに、ズンズン歩いていく。途中、ブルーベリー畑があれば立ち止まり、川ではのんびり休憩し、さあ、行こうか、と、また地図も見ずに歩き出す。ねえ、本当にこっちで合ってるかな?と私が問えば、


「でもさ、方向が少しずれていても、ゼッタイ、この川にぶつかるから、それまでは心配ないじゃん。大丈夫だよ~」


と、満面の笑みで返してくる。


果たして、我々は、何の問題もなく、次のX地点までたどり着いた。楽しいブルーベリー・ピッキングのおまけつきで。




経験値からいえば、エミリーは、すでに、アウトドア業界で働いていて、メヨよりもずっと上だ。それでも、メヨが持っている、あの「大丈夫だから行こう」な背中は、この状況では、下手な地図読みよりも、休憩だから水飲んで、っていうような心遣いよりも、ずっと重要だった。


メンバーの誰もが分からない未知の世界を進むとき、Xはあっちだから、今いるこの道をまっすぐ行けば大丈夫、という、あのリーダーの背中が必要だ。ゴールをみつめ、迷いを捨てて、真っ直ぐに、突き進めるような、勢いと、潔さ。


***


別の日には、私もリーダーをやった。どきどきしながら。


メンバーの感想(毎晩、その日の反省会をやるのです)。


「あんまりおしゃべりじゃなくても、存在感があるってことができるんだって気づいた」

「みんなの可能性を信じて自由にやらせてくれた」

「アラスカを楽しむ時間をつくってくれてありがとう。今日が一番アラスカらしい1日だったよ」

「このまま、今の自分を信じて精進してください」


アメリカ人は褒めるのがとても上手で、私は褒められ慣れていないため、こういうコメントは、どうにも背中がくすぐったくてしかたない。


***



あ、時間切れなので空港へ向かおう。久々の成田だー。


この続きは、12/18に、(脱線すれば)お話できるかも。忘年会シーズンまっただ中ですが、どうしても「年内」に実施したので、この日程でやります。


「LNT(Leave No Trace)を学ぶ 森のなかでウンコする方法」

@地球探検隊(新宿御苑)