美味しいご飯を食べて、お腹がいっぱいになるように、美しい景色や密度の濃い体験をした後は、どうしてこうも、ココロがいっぱいになるんだろう。
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今も、映画のBGMなみに、耳の奥にこだましている、大音量の蝉の音。
キーボードを叩く今も、ついデコボコを探してしまう、絆創膏だらけの指。しっかりと残る指先足先のこの痛みは、3mmの幅のデコボコを、全神経を集中させて探した証。
新宿の雑踏にいる今も、心の眼で見ているのは、圧倒的な存在感を誇る岩の大きさと、真下の原生林の緑と、そのはるか遠くの、ミニカーよりも小さな車たちが行き交う町。
しっかり大地に足をつけている今も、心はちゃんと覚えている。道路から数百メートルの高さなのに、足幅分しかない岩の真ん中の小さな小さな休憩所。ロープ一本だけで頼りなく張り付いているときに感じた、脳の奥がギュっとするような緊張感と、同時に不思議と感じる開放感。
昨日の岩登りは、
2年半も(いつもは仕事だけど)何をみていたんだろう、というくらいに違う、新鮮な体験だった。あの岩に張り付いていた数分に感じた気持ちは、多分一生忘れない。
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ココロを満たす体験は、お金を出せばどこでもいつでも買えるものじゃない。
どっちかといえば、事故にあうようなものだ。
まずは、自分自身が、素直にオープンで平静な状態でいることが大前提で。
さらに、この自分の心とか景色だとか天気だとかメンバーだとか後ろで聞こえる音だとか、いろんな要素の歯車が全て、全て、全てが奇跡のようにかみ合った瞬間、たまーーーに訪れる、あの幸福な一瞬。映画のワンシーンのように、五感で、心のアルバムに記憶されていく。
ときおりそのアルバムを引っ張り出しては、一瞬の光景を五感で思いだし、また幸せな気分になるんだろう。
どうしたことか、最近は、そのアルバムが、どんどん重たくなってきた。
昨日の岩。
アラスカのマイナス20度チュガッチキャンプ。
レニアのハイキャンプで見た朝日。
ユーコンの氷河で5日ぶりに顔をだしたローガンの勇姿。
幸せだ。
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たくさんの人に、このアルバムをつくってほしいと思う。たまに辛いことがあったって、このアルバムを開いて、飴のように、ゆっくりゆっくりココロの中で転がせば、恍惚の一瞬が鮮やかによみがえり、大抵のことはやりすごせるはずだ。
そして、わたしが関わる旅で、皆のアルバム作りの手伝いができたら、本望。