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GWのグランドサークルの旅 でおきた素敵な奇跡。


自分の蒔いた種が実った喜びと
メンバーの自主的で前向きで素直でかっこいい行動の数々と
アメリカ人の、よし、と思ったらとことん褒め称える私の好きな性癖が
絡み合って生まれた、この藁しべ長者みたいな物語。


あの場にいないと、なかなか伝わらないかもしれないし、めちゃくちゃ話長いけ
ど、でも、記録のために、ここに残しておきます。


***


物語の始まりは、2年前までさかのぼる。


アメリカ山岳ガイド(って、直也くんのことだけど)を招いての「アメリカ自然保護 LEAVE NO TRACE」勉強会。自分の歩いた後には、何も残さない、自分が来たことで自然にインパクト与えずに来る前と何も変えずに戻ってこよう、というメッセージの種は、たった2時間の勉強会だったのに、参加者にしっかり伝わっていた。



その時勉強会に出席していた、今回の参加者まりっぺは、初日の自己紹介で、こういったんだ。
「今回アメリカに来た目的は、アメリカの国立公園の自然保護、Leave no Traceの姿勢を学ぶためです」


他の人たちが「自然のなかでのんびりしたい」「みんなと仲良くなりたくて」と、普通の発言をするなかで、ちょっと際だっていた彼女の言葉は、でも、誰からも揶揄されることもなく、普通に受け入れられたようだった。


その証拠が、初日午後のザイオン国立公園。エンジェルス・ランディング、という、ちょっとスクランブルっぽい、往復4時間のハイキング。


高さ500mの垂直の崖の上に立ち、いやー、こりゃ最高のトレッキングだね、気持ちいいね、と話しながらの帰り道、休憩中に、イチローが、突然こんなことを言い出した。


「誰かゴミ袋持ってない?」


え?と振り向くと、そこにペットボトルが沢山落ちているからさ、持って帰ったほうがいいかなーと思って、と、ちょっと困り顔のイチロー。ペットボトルがいるような大きなゴミ袋は誰も持っていなかったけど、その代わ
りにでた提案は、「じゃあ、持てる人が、一人1本ずつ持って帰ればいいじゃん」という爽やかな一言。


いろんな人のデイパックの後ろに、汚れたペットボトルが、すぐに収まった。


***


そんなことがあって、トレイルヘッドへ戻ると。


今度トライアスロンに出るんだ、という体力派ミツルが、聞いてきた。「ねぇ、betty、ここからキャンプ場までどのくらいあるかな」。地図を確認し、10キロくらいじゃない、と推測する私に、じゃあ、シャトルバスじゃなくて、走って帰ろうかな、気持ちいい景色だし、と、さっさと走り出す彼。


げ、4時間歩いたこの後に、トレッキングシューズで、走るのか!?さすがだなー、行ってらっしゃい、と、私たちはシャトルバスに乗って彼を見送ったが、


でも、車に乗ってすぐ、よく考えたら悪い提案じゃないかも、って思い直した。


昼間のジリジリとした暑さもなくなり、夕方らしいひんやりとした空気、
藍色になってきた空には三日月が微笑んでいて、両側にはザイオンの壮大な岩岩がそびえている。
道路の横、バージン川がサラサラと流れ、川沿いに生える木々の間からは、絶え間なく小鳥の声が聞こえてくるし・・・、


東京じゃ体験できない、
なんともさわやかなジョギングタイムが、約束されていそうだった。


ねえ、私、次のバス停で降りて走ろうかな。多分30,40分くらいのジョギングだし、このザイオンの景色をずっと見ていたいからさ・・・と、一人で走るのも寂しいので(私は仲間がいないと長距離走れない)、みんなを誘ったら、最初は「えー」と言っていたメンバーたちも、ザイオンマジックで、ひとり、またひとりと手を挙げる。


というわけで、次のバス停には、バスが立ち去った後、
トレッキングシューズを履いた、おかしな日本人10人が、残されていた。



車しか通らないような道路を(トレッキングシューズで)テレテレ走るアジア人集団。
・・・これは、目立つ。


バスに残った3人が、みんなの、汚いペットボトルが突き刺さったデイパックを持って帰ってくれたのだが、

シャトルバスの運転手は、ワラワラと走っている日本人と、ペットボトルを持つこの日本人たちを不思議に思ったらしい。


「何で走ってるの」「何でゴミ持ってるの」と、バスにいる3人に、彼女は立て続けに聞いてきた。彼らが事情を説明すると、地元の小学校で自然保護を教えているんだ、という彼女は、この無鉄砲な不思議な日本人グループをいたく気に入ってくれたらしく、降りるまで話がはずんだそうだ。


***


1時間後。キャンプ場。


まだ到達していないメンバーを迎えるため、道路で待っていたら、ひとりの青年がやってきた。


「走っていた日本人って、君たち?」
「・・?はい。多分」
「シャトルバスの運転手が、これ、君たちに渡してほしいって」


と渡されたのは、くしゃくしゃの20ドル札が2枚。


「え、何で?」
「知らないよ。僕は言付かっただけだから」


バイバイと、去っていた青年。


もしかしてさ、ゴミ拾いとザイオンジョギングの行動へのご褒美なんじゃない、と、バスで戻ってきたまりっぺがつぶやく。・・・そうか、そんなお金の渡し方がありなのか・・・。


私たちは、何だか嬉しくなっちゃって、「ファイトマネーだね、これ、ファイトマネーだ!すごい!!」と、4時間のトレッキングと1時間のジョギングの疲れも忘れて、興奮しながら、ツアーリーダーに報告しに行ったのだった。


***


走りたく、ゴミを拾いたくなるようなザイオン国立公園の景色に、
その昔、熱を込めて話してくれたガイドに、
それを覚えていてたまりっぺに、
さっそく実践したイチローに、
走ろうよ、って意外な提案をしてくれたミツルに、
それを見て気に入ったからと気っ風良くお小遣いをくれたドライバーに、


そして、この出来事のあと、旅の間ずっとずっと、LEAVE NO TRACEを積極的に実践しつづけようとした(そして日本に帰ってからも視点が変わったという)参加者みんなに、


ありがとう。


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