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日本じゃ、どうして、サマータイム設けないのか。

今の時期、朝5時にはすでに眩しい朝だよ。もったいない。(時差呆けつづき、4時起床、21時就寝と、まるでキャンプ並の毎日)


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「こんにちは。僕はジミー。ナバホの名前では、ムニャムニャムニャ(←発音難しくて聞き取れない)。「The sun of the morning star・・・明けの明星の子」という意味なんだ」


バック・トゥ・ザ・フューチャー3に甥っ子が俳優として出たんだ、僕も甥に似ていてハンサムだろう?と笑う、前歯が微妙にすきっ歯の、おじさんジミーが、今回のガイド。赤いヨレヨレTシャツに、着古したジーンズ、安っぽいサングラスをかけた、ファニーなおじさん。


アリゾナ州のはじっこ、モニュメントバレーは、ナバホ族の居留地で、だから、ここを案内してくれるガイドさんは、日本人にとっては親しみある顔つきの、ナバホ先住民の人たちだ。


モニュメントバレー来るのは、もう何十回・・・は言い過ぎか、十何回目、なので、この場所のことは、結構分かっているつもりだった。



コンタクトの目には辛いだろうな、と思わせる、サラサラの乾いた赤土、


右手袋、左手袋、象、三人の修道女、駅馬車、雌鳥、王様、らくだ、スヌーピー・・・、と名付けられた、「ビュート」「メサ」と呼ばれる巨大岩の数々、


この不思議な景色が、ハリウッドの監督たちに気に入られ、たくさんの西部劇の舞台となってきたこと、


居住用のまあるい女性ホーガンと、祭祀用に使う三角形な男性ホーガン、二つの形の盛り土でできた家、


そのホーガンは、東がドアになっていて、中に入ったら、必ず時計回りに動くきまりだ、ってこと、


壁に残されたアナサジ族の壁画、


朝日と夕陽に怖いほどに輝く大地の色、


トレーディングポストで売られているターコイズとシルバー、ドリームキャッチャー、手織りの布・・・。



でも、何にも分かってなかった、分かっているなんて、私の奢りだった。あまりにも観光地として有名なこの場所で、いや、だからこそ、(仕事で接してきた)私は、写真映えのするこの岩の、奇妙な形しか、上っ面しか見ていなかった。



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彼は、いつものガイドとは、どこか、ちょっとだけ違った。


「あの岩がらくだ岩」

「あそこが、ジョン・フォードポイント」

「僕と一緒に写真撮るかい?いいよ、おいでおいで」


と、フツーの説明をし、おどけながら写真のポーズを取る、、その隙間隙間に、さりげなく、ナバホの人たちの信仰を、生き方と考え方を、かいま見せてくれるのだ。


親戚がメディスンマン(宗教者って訳せばいいのかな?儀式を司る人)だからなのか、ジミーにも、言葉の節々に、それを感じさせる重みがある。


Thank God to be on the Earth

は、「今日、実は私の誕生日で、そんなスペシャルな日に、大好きなこの場所にいられることが嬉しい」と言った私への返事。


人間には分からない天気が、植物たちには前もってちゃんと分かるし、対処できる。ここに咲いているこの花は、人間よりもずっとずっと偉いんだよ。この岩が、この植物が、母なる大地すべてに神が宿っているんだ、というつぶやき。


夕闇せまり、刻一刻と夜に向かう薄暗闇のなか、大きくそそり立つ岩の横で吹いてくれたフルートと太鼓。ジミーが奏でる音たちは、岩ととてもよく調和していて、風に流れて、大地に溶け出していく。音につられて、自分の肉体の細胞まで、この赤い大地に同化しちゃうんじゃないかと思った。短いけれど、永遠に思えた不思議なあの時間。


フルートの音をききながら、ジミー=地球からの声を聴きながら、


ナバホの人たちは、この地で、たまたま西部劇の舞台になった幸運で、観光業で儲けちゃってラッキーだね、くらいにしか思っていなかった私は、静かに衝撃を受けていた。


この不思議な形状の大地の下で、地球と調和しながら、ゆっくりと生きてきたこのナバホの人たち。


モニュメントバレーの地と出会って早14年、この地に住みついてきた人々の心に、ようやく、少しだけ触れることができた・・・気がした。


***



同じ場所に行っても、受け手の感性の開き具合によって、見せてくれる景色は千差万別なんだ。



ナバホの言葉に、「さようなら」という言葉は存在しない。


「ハコネ・・・またおいで」とハグハグして、お別れしたジミー。最後に、誕生日のお祝いだよ、と、水色ターコイズの小さなピアスと、使い古したフルート演奏のテープを、そっと手に握らせてくれた。僕のフルートをいつまでも聴いていたそうだったから、僕のお気に入りの音楽をあげよう。また家でゆっくりお聴きなさい、と。


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ここまでキレイごと書いて、このオチはないと自分でも思うんだけど。

いくら機械音痴の私でも、さすがに今カセットテープは使っておらず・・・、もらった音楽は、いまだ聴けないのであった。


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