0323-7


話が前後します。またアラスカ。しかもマジメ。


3月のアラスカ訪問では、フェアバンクス郊外でみんなとオーロラをゆっくり見た後、私ひとりでアンカレジに降り立った。いつまでも同じ売れ筋企画にすがっていてはいけない。その次を、考えていきたいから、今回は、今後の企画のヒントを得るための、下見(という名の趣味の世界、とも言えなくはない)。ウインター・バックカントリー・キャンプ1泊体験。


アメリカでバン・キャンプを重ねるうちに、アラスカのキャンプ場で何度か過ごすうちに、もうちょっとだけ、先へいきたくなってきた。


道路の街灯の光が見えないような、

近くの車のクラクションが聞こえないような、

隣のキャンパーの騒ぎ声で目が覚めてしまうことのないような、その奥へ。


自分でテントと寝袋と食料をもって、大きなバックパック背負って、車両は入れない「バックカントリー」と呼ばれる場所へ入っていっての、キャンプに惹かれるようになったこの1年。


持っていく荷物は20キロ超して重たいし、やっとのことで辿り着くキャンプ場は、「キャンプ場」っていうか、ただの開けた空間で、シャワーどころか、トイレはないし、水はないし、明かりもない、と、不便不都合極まりないのだけど、


車ではたどり着けない、自分の小ささが怖くなってしまうような、静かで優しく大きな自然の懐は、一度知ってしまうと、甘い蜜の味。離れられない。


自然とガップリ正面からぶつからないといけない、ということは、雨や風や動物に敏感でいなくてはいけなくて、他に頼る情報も道具もないから、頼れるのは自分の知恵と五感だけで、


となると、都会生活で眠っている感性が目を覚ます。鋭いナイフのように、自分の感覚が、研ぎ澄まされていく。


(・・・そうじゃなくちゃ、月明かりみただけで、涙がでるわけがない!)


アラスカという土地は、そんな感覚をとぎすませるのには、他のどの場所よりも適当なのだ。



バックパッカー1年生、ルーキーBetttyが、よっこらせ、とその先の世界に手を伸ばそうとしているとき、向こうの端から、優しく手を伸ばしてくれたのが、今回同行してくれた、Matt


アンカレジに最近腰を落ち着けた、という彼は、ハードコアな、根っからの山人間。マイナス20度でも、かまわず外で寝る。「僕はテント嫌いなんだ」って、さらっと言うのが、また似合う。マッキンレーガイド登山10回もやったら、なんか、ちょっと飽きちゃったんだ。ギリギリの世界もいいけれど、マッキンレーで感じていた、自然の美しさと、緊張の中で研ぎ澄まされる感性のあの感覚を、もっと普通の人にも体験してほしくて、ガイド会社をやることにしたんだ、と。


私と彼の立ち位置はハジッコとハジッコだけど、多分、見ている世界は、紹介していきたい世界は、きっと、そんなに違わない。Mattの力を借りて、「車の音のしない世界でキャンプ体験」、実現したいなー、と月明かりに誓った夜。


それにしても、だいたいにおいて、こういう山岳ガイドたちは、自然に対してとても厳しい。自分の足跡は残しちゃいけない、LEAVE NO TRACE右翼の彼は、夕食のパスタ皿を・・・お湯をいれて、お皿に残ったソースを溶かして、それを飲む。「意外にね、美味しいスープだよ」って、にっこりと笑いながら。


そう、彼らは、皿についた汚れを残していくことすらしない。「別にまねしなくてもいいよ」というが、ここは、MATT式を見習わなくちゃね、ということで、ごっくんと飲んでみた。薄すぎるクリームスープ。


正直、あんまり美味しくないスープだったけど、でも、だから、チュガッチ山脈のあの小さなキャンプ場(というか、ファイアーリングがあるだけの池の畔)は、変わらずにきれいなままで、今日も静かに旅人を待ち受けてくれているんだよ。


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メモ:夏のアラスカ、バックカントリー・キャンプ教室1週間の旅