ありゃまあ、今回は、ずいぶんと、年配のリーダーだな、って、
初日、顔を合わせた時に思った。
トレックアメリカのツアーリーダーは、20代や30代前半の・・・同世代か、ちょっと年下の人達との仕事になることが多いので、一見したところ、40代後半くらいにみえる今回のリーダー、ジェフは、私にとっては、ちょっと意外だった。
トレックアメリカのリーダーの仕事は、まず何より体力第一な、タフな仕事だ。
1週間、2週間、ときには1ヶ月もの間、キャンプを続けながら、遊び回りたいお客さんを相手に、
一緒にトレッキングしたり、
1日700キロ以上ドライブしたり、
椎間板ヘルニアになったらどうしよう・・・って一瞬ひるむくらいの重たい荷物を、、毎日毎日、高さ2m以上あるバンの上から上げ下ろししたり・・・って、
かなり気合い入っていて、好きじゃないと、とてもできない職業。(しかも給料はびっくりするくらい安い!)若くないと、なかなか続けられないでしょ、って思いこんでいた。
でも、「もうトレックの仕事をして13年だよ」というジェフ(推定40代後半)は、でも、贅肉のひとつもないスリムな体とその長年の経験で、素晴らしい1週間を私たちに演出してくれることに気づくまで、そう時間はかからなかった。
そんなジェフの口癖は、「そりゃ、素晴らしい!」だ。
スーパーで、「ベーグルも買っていい?」と聞けば、「そりゃ素晴らしい!キミは買い物の天才だ」。
パキパキと準備をし、朝の出発時間が、予定通りになった日には、「みんな素晴らしい!」
夕食の肉野菜炒めを作っているとき、「もう少し胡椒足したら美味しいかな?」と言えば、「そりゃ素晴らしい!」
キャンプ場で「水汲んでこようか?」と聞けば、「それは素晴らしいアイデアだ!」
ってな具合で、普通にやっていることを、いつもいつも「Excellent!」って、大げさに褒めてくれる。なんだか、そう言われると、小学校1年生の頃、作文で花丸をもらったときのような気持ちになって、ついニッコリと、素直に行動してしまうのだ。だんだん、チームの雰囲気は、「先生と子供たち」・・・いや、「ジェフ爺さんと素直な11人の孫たち」ってな具合になってきた。
「雪が降らない限りは半ズボンしか穿かないんだ!」と、毎日、誰よりも一番薄着でいるような鍛えられた肉体と、気持ちの若さは、どうみても40代なのだが、なんか、それを超した部分・・・彼の精神は、もっともっと大人な気がしてきて、ツアー3日目、ついに聞いた。「ジェフはいくつ?」
「人に年を聞くのはあんまり礼儀正しくないねぇ」といいながらも、教えてくれたその歳は、1932年生まれ、なんと73歳! 最初は誰もが半信半疑だったが、どうやら本当らしい。・・・仰け反った。
まさか、73歳になって、トレックのリーダーをやっているとは!。60歳で軍隊を定年になった後、趣味でやっている仕事ってこと!?私の知っている73歳という年齢を飛び越したこの若さは、何!!??
キャンプだとか自然相手の、体力勝負なこの仕事は、若いうちしかできない、ああ、私10年後どうしようっって思いこんでいた自分の意識と常識を、カンタンにブチ破いてくれたジェフ。
そこから先、ジェフと私たちは、ますます「頑固爺さん孫三人」みたいな世界になっていく。彼のウイットに富んだ会話と、ユーモアあふれる行動を楽しみ、13年のキャリアがもたらすあふれる知識に聞き入る毎日だった。
「いいかい!旅は何がおこるか分からない。いつも僕は最悪の事態を予測しておくんだ。オプション1,オプション2、、、その最悪の事態がおこらなけりゃ、それに超したことはない」
「人間の歳には4つある。戸籍上に残る年齢、肉体年齢、精神年令、それから、どれだけmatureかっていう意味での年齢」
「ツアーはいつも3つのGのどれかだ。Good, Great,そして、Glorious。今回のツアーは、Gloriousだね!」
「幸せになる方法。
1時間の幸せは、お酒飲むか女と寝るか。
1日幸せになりたかったら、ショッピングモールにいくか、ゴルフ。
1ヶ月の幸せは、宝くじにあたることで、
半年の幸せは、結婚することだ!そう、結婚は一度はしておくべきだ!
一生幸せになりたけりゃ・・・、グランドキャニオンを歩くことさ!!」
なーんて、思わず書き留めたくなるようなことを言ったかと思えば、
「僕は親の仕事の関係で、日本で生まれたんだ。だから、日本語が最初の言葉だったんだよ。アツイ?サムイ?アッメアメフッレフレー母さんが~」って、スキップしながらいきなり歌い出すお茶目な姿を見せてくれたり。
私たちが楽しく旅をできるよう、毎日毎日、そりゃあ、小さなことまで気を遣ってくれた。
そんなスーパーウルトラマン・ジェフの、最後の小さな小さな失敗。
「食費積立金が、あと6ドル79セント余っているから、最後のサプライズに、ランチ(昼食は毎日、ピクニックでサンドイッチランチだった)に、フライドチキンを買おうと思うんだ。いつもチーズとハムじゃあ、飽きているだろう。最後のランチは豪華にね。みんなには内緒だよ」とウインクをして、スーパーで、買っている姿が見つからないよう、そそくさと買い物を済ませたジェフ。
でも・・・、でもね、ピクニックエリアに移動する3分間ドライブの間に、狭い車内には、あの、脂ぎった、ケンタッキーな匂いが充満していたから、みんな気づいちゃったんだよ、袋の中身。
が、そのころには、ジェフの気持ちもみんな理解するほどに大人だったので、素知らぬふりを続けた。ピクニックテーブルにドーーンと現れたチキンに、「キャーーー!」って驚いた演技は完璧で、そんな互いの姿が、私には、また、久々のジャンキーなチキンの味よりも、よっぽど嬉しかった。
アンクルジェフと、その子供たち・・・「そりゃ素晴らしい!」チームな仲間との出会いが、私がもらった、2006年の超ビッグなお年玉。