hasetsune


17時間34分かかってゴールした。


17時間34分もあったら、成田から、アメリカ乗り継いで、カリブか南米の都市まで辿り着けるんじゃないか、ってくらい、冷静に考えると長すぎる時間だ。


長すぎるその時間、眠くなりながら、何でこんなことしてるんだろうとイヤになりながら、自分の心と対話しながら、本当のゴールは遠すぎるので1時間先の小ゴールを決めながら、終わったらご褒美に何を食べようかと考えながら、だんだん考える気力もなくなって無心になりながら、そして最後は闘争心に火をつけながら、


歩いて、走りつづけた。


得たものは、達成感と、それ以上に人生過去最大の筋肉痛、か。




日本山岳耐久レース

奥多摩の山々・・・全行程71.5キロ、標高差4832mのコースを、24時間以内にゴールする。途中、補給できるのは、42キロ地点での1.5Lの水だけなので、上着やら食糧やらと必要なものは、全部背負っていかなければならない。


本気のレーサーたちは、これを8時間台で走ってしまうけれど(あんなアップダウン続く山道を、時速9キロだなんて、いまだ信じられないけれど!)、24時間、という時間設定にすれば、私でもできなくはない、はず・・・、と思い続けて2年間、ようやく、実現するにいたった、今年。


最初は、無事にゴールすることが目標だったはずなのに、(装備と荷物の重量は、「歩いて」「24時間」という前提で成り立っているのに)


歩いているうちに、いつのまにか、周囲の鼻息の荒さと殺気だった雰囲気に飲み込まれ、もともと点きやすい闘争心に火が点いてしまい、


調子にのって、予定以上に走ってしまった。


結果、予定より早い時間でゴールはできたものの、すぐに人生過去最大の筋肉痛がやってきた。もともと痛めていた右膝もギーギーと痛い。今日なんて、2階にある自宅に行くのも、エレベーター利用する始末だ。こんな無茶をしていたら、体壊してしまう。


走るなら走るで、もっと体つくらないと!



不思議なのだが、2年前に思った、「自分が71キロも歩き続けられるのか」というゴールは、今となっては、「まあ、できるだろう」というレベルになっていた。今回の結果は、満足で、不満足。挫けそうになる辛さに打ち勝って、ゴールを踏めたことはよかったが、もう少し対策を練れば、もう少しいいタイムが出せたはず。目標設定を間違えた。現時点での自分と目指すゴールに、ズレがあった。


***


でも、レースは嫌い。

私が自然のなかに入る理由は、競争心じゃない。


今回、


三国峠で出会った、霧が立ちこめる林のなか、黄金色の夕陽がつくりだした輝く木漏れ日に溢れた瞬間や、


月夜見山近辺で、林が切れた瞬間に現れた、東京なのに降ってくるほどの星空や、


大岳山頂から見えた、夜中3時過ぎなのに消えていない東京の夜景や、


日の出山の、朝日が昇る30分前の、濃紺からオレンジ色に変わりゆく地平線の様や、


こんなレースでもなきゃありえない時間帯・・・、明け方、朝日に向かって山を走る朝一番の空気の爽快さや、


そういったことを、もっともっと味わいたいのに、肉体的にも精神的にも厳しい状況では、なかなか浸りきれない。見逃すには、あまりにも、もったいない瞬間と景色が、何度も訪れた。


***


もしかしたら魔が差して、来年も出たくなって、この日記を見返しているであろう自分へのメモ。


水は合計4Lでいい。

固形物は喉を通らない。

荷物はもっと軽く。

ライトはもっと明るく。

71キロ(特に三頭山と大岳山の登り)は相当に大変だ、もう二度とやらないって心に誓ったこと、ちゃんと思い出して!