「じいさんや、このNOLSの子供たちが、ピザの作り方を教えて欲しい、っていうんだよ」
「そうかいそうかい。彼らは頑張って旅してるようじゃないか。じゃあ、チュガッチ・ファミリー秘伝のピザのつくりかたを、教えてやるかいね。トマトソースと、ホワイトソース、両方つくろうじゃないか」
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インストラクターは、我々生徒に、テントのはりかた、ロープワーク、地図の読み方、クマの生態から、ファーストエイド、自然と調和する方法まで・・・、毎日毎日、いろんな方法を駆使して、「アラスカのウィルダネスで、自信をもって旅する方法」を教えてくれる。
この日は、飛行機の補給物資のなかに、密かに紛れ込ませていたという、緑のカツラまで使って、スキット(寸劇形式)で、バックカントリー・グルメ・クッキング・スクールが行われた。教室は、そう、アラスカの大自然のまっただなか。
「パール(娘)や、イースト菌はどれだい?」
「はい、これよ、おばあちゃん」
「おお、ありがとう。イースト菌は生き物だからね、増やすには、食べ物が必要なんだよ。砂糖を用意しよう。それから、温かくしてあげないと。そう、このくらいのぬるま湯がいいね」
と、イースト菌の使い方を完璧にマスターさせる。
野外ゆえ、使える調理器具は限られている。計量機器なんてないので、すべては「感触」。ドー(パン生地)の発酵は、ジャケットの下にいれ体温を使う。生地を延ばすのは、フライパンを逆さにした台に、ネルジンの水筒。チーズは、スピチュラ(フライ返し)でカットする。
と、相当野蛮な方法なのだが、
ああ、何故だか、あまりにも美味しい、ピザが完成してしまうのだ。
小麦粉屋の娘として育ちながら、何とも恥ずかしい限りだが、今までの人生、ピザは「電話してオーダーするもの」であり、生地をつくるなんて、考えたこともなかった。イースト菌って、なんじゃい、ってなくらに無知だった。
そういえば、アラスカに来て、家や家具をはじめ、何度、「ああ、買う物じゃなくて作るものなんだ!」という驚きを味わっただろう。
そして今回、人生三十数年にして初めて、キッチンでなく、アラスカの山奥で、私は料理の基礎を習ってきたのだった。
<野蛮なピザをつくってみたくなった人はこの本↓>
- Claudia Pearson, Claudia Lindholm, Mike Clelland
- Nols Cookery (National Outdoor Leadership School)