専門用語では、マルチピッチと呼ぶ、らしい。
でも、難しいことはどうでもいいね。
腰に巻いたロープを命綱に、
上へ、上へ、上へ。
垂直に上へ、ぐんぐんと。
もっと上へ。
自分の体を上げることに懸命なので、自分の立ち位置をあまり把握していないが、
ふと冷静に後ろを向くと、
あまりの高さと切り立った垂直感覚に、
足が竦む。
ああ、私、こんな場所で何してるんだろう?って、後悔する瞬間。
それでも、得意でもないクライミング を、思い出したように、続けてしまうのは、
岩のてっぺんから見渡す山っていうのは、
眼下に、木々の先っぽを見下ろすあの景色というのは、
普通にトレイルを歩いたときに見える景色とは、
また一味違うからなんだよなあああ。
6月の長野は、
東京よりも、一季節遅れていて、
やわらかな、あわいあわい、みどりいろの、新緑に、
やさしく包み込まれた1日だった。
***
齢30(も大幅に)すぎて、膝を痣だらけにしている場合じゃない。
岩の隙間に手を突っ込んで、手の甲を擦りむいている場合じゃない。
指先は擦り傷だらけで、
爪も傷だらけで、
オンナが台無しだ
と、いつも思うのだが、
この痛みは、瞼の裏の新緑の景色につながっていて、
痛みと痣が消えるころ、
また、岩にしがみつきたくなるんだろうなー。
地球と遊ぶ方法は、たくさん、ある。