アラスカ出発前夜、突然の痛みで目が覚めた。


1本だけ残っていた、左下の親知らず。

ずきんずきん。

痛い。

痛い。



出発当日の朝駆け込んだ薮歯医者は、

「おやしらずっていうのは、大人になって突然痛み出すんですよ~。だからおやしらず~。まあ、よく寝てストレスためないことですな。帰ってきたら、良い医者紹介してあげましょう」


と、講釈を垂れただけで1800円の請求書とうがい薬をくれた。



アラスカ滞在3日目までは、バファリン中毒になりそうなほど、6時間おきに、バファリンを飲んでいた。正直、オーロラどころじゃない。世界は、親知らずだけで構築されていたのだ。


3/17の日記

「歯、歯がいたいー。死にそう~。バファリンがあと10錠しかない~」


ところが、アラスカ大地パワーは、親知らずをも黙らせた。スバラシイ。嘘のようにすっかり痛みが消え、いつも通り、オーロラを、アラスカを、犬橇を、と、楽しく過ごしていた私だが、


日本に帰ってきたら、魔法がとけた。

ズキズキズキズキ。

あの痛みは嘘じゃなかった。


もう我慢ならん。

今夜、意を決して抜きにいこう。


痛みへの耐性が異様に弱い私が、気を失わずにいられるか、今から、ドキドキ。ズキズキ。ドキドキ。ズキズキ。すでに恐怖で倒れそうな朝。