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▲kluane NP, Canada


一時期買い集めて読みあさっていた星野道夫の本は、本棚1列並んでいるが、最近は封印している。


私よりもずっとアラスカを体験して、感じて、そして深く深く愛していた彼が、あの写真と筆力で綴ってしまうと、どう逆立ちしたって叶わないし、どうしても、その気がなくても、彼の世界に引きずられてしまう。


自分の意見だと信じて得意げに話してきた、アラスカのあんな話やこんな話が、実は彼の本に書かれていたりするのに改めて気づくと、脱力だ。


きっと私は、私の視点での「北の大地」を、発見したいし、発信したいんだな。足りないながらも。


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だから、昨日の、オーロラクラブ・スライドショー は、久々の、星野道夫どっぷり世界、だった。オーロラクラブでは、毎年春、小学生~大学生を、デナリ山のふもと、ルース氷河のなかに連れて行く。その「氷河キャンプ」プログラムのスライドショー。


氷河に行くのは、小さなセスナだから、天気が悪かったら飛べない。今までの確率では、ルース氷河に行った割合は半々だと言っていた。で、オーロラが見えなくても、ルース氷河に行けなくても、子供たちはそれを楽しんでいる、と。


すごいな。


親の方が気持ちが強く、子供に「行っておいで」というからだろうか。33万円という金額は安くはないと思うが、そんな金額も、自分の財布から出ているわけではないから関係ないのか。無欲な・・・というか、余計な思惑が邪魔しない子供たちだから、あるがままの状況を受け入れて楽しめるのか。羨ましい。


「オーロラが見えなかったら10000円返金します」とか、「寒い場所だけど、特製炬燵に入ってオーロラ鑑賞」と、文明の・・・人間の論理でつくっているツアーで北の大地に行く人には、あの大地の本当の(って、何が本当かは微妙だけど)表情を感じてくることはできないだろう。


最初に私が見たアラスカは、「いいホテルに泊まりいい食事を食べ、氷河が崩れる落ちる中クジラが飛び、白く輝くマッキンレーを見る」ために(仕事で)出かけたため、全然面白くなかった。そんなものは、どこにもなかった。クジラは出ないし、マッキンレーは雲の中だし、ホテルじゃなくてロッジだし、そのロッジの部屋には、巨大な蚊がブンブンしていて、お客さんからクレームくるし、そりゃあもう、不便なだけの不快な場所だった。


ところが、宿をテントに代えるとか、雨を受け入れるとか、思うとおりにいかない理不尽さを受け入れ、都会の便利さを捨てれば捨てるほど、アラスカの大地は輝きを増しはじめた。少なくとも、私にとっては。


という前提での、今ある「地球探検隊・オーロラの旅 」なので、企画者の意図としては、理不尽さと不便さ全部を、受け入れて楽しんでほしいんだな。そういう場所にいるんだから。


一生に一度は見たいであろう夢のオーロラだし、

一週間休み取るのは大変だし、
20万、30万というお金は、決して安くない金額のは分かるけど。


「想像していたような、動き回るオーロラを見られなくて残念だ」とか、「シャワーを4日間も浴びられないのが大変だった」とか、そんな感想が出てくるのは、まだ、何かが伝え足りないんだろうか。


オーロラは、きっかけにこそなれ、アラスカで見る順序としては、正直、二の次なんだけどな。


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で、今日の写真は、アラスカじゃなくて、ユーコン。


去年、セスナに乗って、氷河の上に降り立った。カナダ一の高峰、マウントローガンを見るために。降り立ったはいいが、この後天気が急変し、セスナが我々を迎えに来られなくなった。軽く1泊の予定が、いつ終わるともしれず、2泊になり、3泊、4泊・・・と延びていった。すべてのその後の予定は狂い、しまいには、日本へ帰る飛行機のチケットも無駄になった。


道路からでは拝むことのできないマウントローガンを見たこととか、
あの年初めてのオーロラを氷河の上で見えたこととか、
ホワイトアウトのなか、上下水平感覚がなくなるなかで氷河の上を歩き回ったこととか、

それはそれは「すごい」景色にはたくさん出会ったけれど、


私が今思い出すのは、そんなことじゃない。


いつまでも止まない雪がつくりだす360度灰色単色の世界と、1時間おきに下界と連絡を取る無線のジージーいう音と、ただ低気圧が去って青空を待つしかない手持ちぶさたなどうしようもない空白の時間と、そこにいたメンバーとのとりとめもない話と冗談が延々と続く緩すぎる空間で、


あの4日間を過ごす前と過ごした後では、明らかに、私の世界観の、大きな何かが変わった。


日本の基準でいくと、企画するには相当リスキーな「氷河キャンプ」は、でも、この夏いちばん私が打ち出してみたい企画でも、ある。興味ありますか?


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長いだけで、どうにもまとまりのない今日の日記。こんな日もあるね。