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ユーコン川カヌーのガイド、フィリップ。フランス人で、何度か長期滞在ののち、イギリス人のパートナーとともに、ユーコンに移住してきた。日頃は家具づくりをしている大工。ときにスキーのコーチ。ときにカヌーのガイド。いくつも仕事を持つのは、自分で何でも解決できちゃうのは、ユーコン人の、フツウ。


フランス訛りの英語のふわふわした響きがすてきで、目が優しくて、カヌーを漕ぐ姿はかっこよくて、初心者の私たちへの指導は的確で、ツアーメンバーの難しい(であろう)日本語の名前を1日で完璧に覚えてくれ、ブロッコリー入りの「フランス流カレー」は超美味で、ダッジオーブンで作るチョコレートブラウニーは歯がとけそうに甘いけどやっぱり超美味しくて、朝は「coffee? Tea? Hot chocolate?」と優しく起こしてくれて、釣り姿もさすがに様になり、でも、水鉄砲戦に一番気合いいれて参戦してくれるお茶目さも持つ、そりゃあ、素敵な人だ。


そんな、フィリップの昔話。


スキーが得意な彼は、数年前、Old Crowという、ユーコンの北にある、飛行機でしかいけない小さな小さな町で、first nationの人たちに、スキーコーチをしていた。


この町は、とても北の、北極圏内に位置しているから、冬は、太陽が現れない日が、何ヶ月か続く。


「それでね、まだまだ寒いある初春の日、いよいよ何ヶ月かぶりに太陽が見られる日がくるでしょ。この日がやってくると、町民みんなで、川原にでるんだ。そして、地平線の先にでてくるはずの、太陽を、じっと待つ。


鼻が凍りかけるくらい待ったころ、ほんのり明るい地平線の向こうに、待って待って待っていた、太陽が、ゆっくりと姿を現すんだ。現れた太陽は、数分、地平線を滑るように動いて、すぐに沈んでしまうけれど、その日は、僕たちにとって、とても大切な日なんだ」



8月にユーコンを訪れたとき、「漆黒の暗闇」を1週間体験しなかった。1週間後、バンクーバーで出会った「暗闇」に、小さく感動した私だったけど、逆に、何ヶ月かぶりに出会う「あたたかい光」というのは、そりゃあ、私が感じた何倍、何十倍もの感動、なんだろうな。



あ、あ、もう一つ。

「冬、ユーコンの冬はきれいだよ。特に雪が積もった後の12月以降。でも、ホワイトホースの町のなかはダメだ。町のなかで見る冬景色は、寂しいだけ。でも、郊外にでかけ、自然のなかだと話は別だよ。雪が優しく淡い太陽の光を反射してくれるから、森は意外に明るくて、真っ白な雪景色は、静かに美しいんだよ」



焚き火の前で、彼の話を聞いていると、

そして今、焚き火の前の彼の話を思い出すと、


すぐにでも、北の大地に引っ越したくなるほど。


北の大地に生きる人たちの、厳しさと優しさと自然に向ける眼の鋭さって、なんか独特。憧れる。



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▲戦いを挑むに十分な相手。降参?