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「秋はもうすぐそこまでやってきているよ」--ジョー・ビショップ

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セインとともにユーコン川下りをガイドしてくれたジョー・ビショップは、私が過去出会ったなかでも1,2を争う、アウトフィッターだった。

どの木と葉っぱが油分を沢山含んでいて焚き火のスターターにいいんだ、とか、
雨の中でも焚き火を始める方法、とか、
斧がなくても、長い木を焚き木サイズに小さくできる方法、とか
(あら、焚き火の話ばっか)

その辺に生えている草の、今何が美味しくて何は食べちゃ行けない、とか、
パイクとグレイリングの釣れる場所、とか、
タープを張るときの木の選び方、とか、

聞けば何でも教えてくれて、私たちは、ぎこちなくも、見よう見まねで、彼のやり方をまねていった。

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私は右手全部にギプスをはめられていて、パドルを握ることができなかったから、彼のカヌーの前が、ツアー中の私の指定席だった。のんきに寝転がって、遠い遠い青空とか、流れゆくユーコン川ほとりの景色を眺めながら、一日中、つらつらと話していた。

五大湖が見える東の方からやってきたんだ、という彼は、ユーコン川をパドリングするのが好きで、ホワイトホースに住み着いた人間だ。今は、夏はカヌーガイド、冬は木こりの仕事をしなら、ユーコン川を見渡せる丘の上のキャビンに住んでいるのだという。

パドルの腕もなかなかだ、と聞いていたので、「世界の川のどこが好き?いろんな川をパドリングしにでかけないの?」と聞いたら、「ユーコンは、一年中僕を飽きさせないから、他に目を向けているヒマなんてないんだよ。」と笑っていた。

シャリリリリ~と、川底から音がする場所があった。かすかな音だから、教えてもらわなかったら、気づけなかった。川底の砂が動く音だという。「この音って、ベーコン焼く音みたいじゃないかい?うーん、おなか空いてきたよ」と、にやっと微笑む。このせいで、フライパンにベーコンをいれる度に、ユーコンを思い出すはめになった。

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私「ユーコン川の、いつがいちばん好き?」

ジョ「秋・・・かな。岸辺の木は紅葉して黄色くなって、キャンプ場のブルーベリーは美味しいし、夜はちゃんと暗くなって、運が良ければオーロラも見える。朝は、冷え切った空気のなか、靄にかすんだユーコン川がきれいなんだよ」

私「いいねえ。ちゃんと右手治して、また秋に戻ってくるよ」

ジョ「戻っておいで。でも、今年は、もう秋がそこまでやってきたみたいだ」

私「はっ!?まだ七月・・・夏始まったばかりだよ」

(船をくるっと右の岸に近づけて)
ジョ「ほら、ポプラが、黄色く色づき始めてる」


言われないと見落とすくらいの小さな変化だけど、たしかに、黄緑のポプラの枝のさきっちょは、薄い黄色になっていた。

来年は、ポプラ全部が黄色くなった頃、パドルを自分で握って、ジョーと一緒にまた旅をしたい。彼と一緒にいると、見落としてしまいそうな小さな自然の声を、聞くことができるから。