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人間は想像力の動物だと思っていたけれど。

でもやっぱり、体験してでしか得られない感覚がある。
自分の肌で知り得た感覚をを土台にしてしか、想像できない。想いを馳せるには限界が、あるんだな。

星野道夫の写真集と本の数々は、アラスカを知る前から読んでいた。アラスカについても、熊に関しても、氷河の雄大さも、分かったつもりになっていた。

でも、アラスカから帰ってきて、もう一度その本を紐解いたとき、そこには、初めて見る世界が広がっていて、驚いたものだ。何度も読んで知っているはずの文章なのに、なぜか、初めて出会う文章を、写真を、見ているようだった。心の中の景色の広がり方が、全然違った。


それは、言うなれば、ぼんやりと薄曇りだった景色が、いきなり晴れ渡ったような、二次元で見ていたものが三次元になったような、白黒映画がいきなりカラー映画に変わったような、無声映画だったのが、いきなりしゃべりはじめたような、くっきりと、ドラスティックな違い。

ということに、前々から気づいてはいたが、先日、野田知佑さんの文章を、1ヶ月ぶりに目を通し、久々に、同じ「ハッ!!」という衝撃を味わったのだった。分かっていたはずなのに、やっぱり、何も分かっていなかった。


「川旅の生活は、「切り捨てる」生活だ。いつも何かを捨てている。生存に必要なもの以外は持ち歩く余裕がない。あれば便利、というのではなく、それがないと生きていけない、という見方で決める。身の回りの品物が少なくなり、生活が簡素になると、感情と思考が単純になる。

「北の川から」 野田 知佑著 小学館より抜粋 


1週間のバックパックの旅は、まさに、「切り捨てる」旅だった。極限までシンプルな環境では、考えることもシンプルになっていって、思考のダイエット・ウィークを経験していたのだな、今思い返せば。情報渦巻いて、考えることがありすぎる今、どんどん思考太りしていく今、あの時間が懐かしい。


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ということを、一応理解はしているつもりなので、仕事でスライドショーをやるときは、気をつけている。

私がどんなにしゃべっても、どんなにきれいな写真を見てもらっても、実際の景色の1/100も伝わっていないだろうという前提で行う。でも、少なくとも、私の、その場所への恋する気持ちや熱が伝わってくれれば、いい。「自分の目で見てみたい」という気分になってくれるかも、という一縷の希望にすがっている。



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スライドショーといえば。
明日、木曜日の夜は、「ユーコンカヌーを知る」夕べで、ゲストは田子っち・ ・・今、私と彼を引き合わせたら、ウエスト・コースト・トレイルの話がでない訳がないよな・・・。写真もあるしな・・・。

何の話に飛ぶにせよ、少なくとも、「まだまだ知らない、ロッキーじゃない大自然カナダ」という基本路線に間違いはないです。まだ席あるので、今日中に仕事頑張って、明日はノー残業で、新宿に遊びにきてください。19時からやります。